歩み

旅と喫茶と、時々、エイト

昨日の空虚と、今日の収穫

2022 10/29(Sat)

社会人は偉大だ。

大学の頃は早くて9時、遅くて12時、ひどいときには15時に起きてモラトリアム人間の名をほしいままにしていた社会の恥が、何がなくとも7時には目が覚めるようになった。

 

今日の私にはミッションがある。

どうにかして昼までに荒れ狂った部屋を片付けなければならない。

どう考えても育ちすぎた豆苗

あろうことか田舎生まれオタク育ちの私が、会社の同期を家に招き、ハロウィンパーティー(仮)を開催することになっていた。

 

そんな陽キャみたいなイベントに参加していいのか。4年間東京に住んで、4年間渋谷のハロウィンを嘲笑してきた陰キャが、ハロウィンパーティー(仮)に協賛していいのか。

 

徒然なる不安を小脇に抱え、床に散乱する万物をなるべく見えにくいところに追いやった。

 

2週間くらい前にAmazonで注文したネイルスタンドをようやく組み立てた。これで女性陣をキャーキャー言わせてやろう。

 

2000年ぶりに掃除機を稼働させ、目に見える範囲のごみを一掃した。

 

2億年ぶりにインスタを開き、同期を驚かせるための口裂けメイクをシミュレーションしていた。

 

心の広い同期が1時間前に現場入りしてピエロメイクで体を張ってくれるというので、私も何かしら尽力しないと失礼だと思った。

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気乗りしない割に午後が楽しみになってきた昼頃、思いもよらず一日の山場を迎える。

 

 

主要メンバーが立て続けに不参加の意向を表明した。

 

 

度肝を抜かれた。

 

記憶の彼方に消え失せたのか。

シンプルに私の人望がないのか。

 

たぶん後者だろうな〜〜〜と思いながら、当日に言うなよと思いながら、一大事を知らない他のメンバーに電話をかけて謝罪した。電気を消してカーテンを閉めてリビングのど真ん中で体育座りした。

 

 

 

2週間かけて得られた成果は「部屋が綺麗になった」ただそれだけ。

 

もうどうでもよかった。

 

 

誰かに慰めてほしくて、母親に電話をかけた。4回目のワクチン接種を終え、いかにもダルそうな母親を凌駕する勢いで1時間ダル絡みした。

 

「今度私の家で同期とハロウィンパーティー(仮)するんだよね」と伝えてしまったので、惜しげもなく惨状を語った。ものすごく同情してくれた。最後は「熱が上がってきたから切るわ」と言われた。すまん。

 

手持ちの服で最もハロウィン感がある服をその辺に脱ぎ捨て、いつものダサい部屋着に着替えた。

 

とにかく体に悪そうなものが食べたくて、近所のセブンイレブンでとにかく体に悪そうなものを見繕って帰った。

帰宅するなりビールを開けた。盛大に吹きこぼれた。隅々まで拭き上げた白いテーブルが汚れた。お湯を沸かす3分間でからあげ棒を完食した。蒙古タンメンの残り汁に卵を入れて3分チンして即席激辛茶碗蒸しを作って悶絶した。何かの拍子に肘がぶつかり、さっき汚した白いテーブルに茶碗蒸しをぶちまけた。悲しいとか辛いとかいう次元を超越した。負の感情は一日分出尽くした。ただただ残骸を3分見つめた。ビールを飲み干して後片付けした。

 

とてつもない偏頭痛で気づいたら寝てた。

今日も休日を無駄にした。

 

 

 

2022 10/30(Sun)

今日も7時に起きた。

昨日の空虚が寝起きの頭によぎったものの、なぜか清々しい気分だった。

 

布団が私を離さなかったので、仕方なくスマホと一緒に小一時間過ごした。

愛してやまないスマホ版のマリオカートを開き、朝からオンライン対戦に臨む猛者を次々となぎ倒した。今日は調子が良いかもしれない。よし。

 

 

今日こそ休日の元を取りたい。

今日こそ好きなことをしよう。

 

 

思い立ったが吉日。平日にはできない濃いメイクを施し、クリーニングに出してパリパリのデニムジャケットを羽織り、8時半に家を出た。

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18歳の秋。純喫茶の魅力に取り憑かれた日から、定期的に来訪しないと心が死んじゃう気がする。

 

ずっと行きたかったくせに、ずっと敷居の高さに慄いていた森彦本店に向かった。

 

「珈琲に遊ぶ」という名の色褪せたエッセイがあり、安直に「珈琲で遊ぶ」や「珈琲と遊ぶ」といった助詞を使わない遊び心に感銘を受けた。大学の頃は狂ったように文章を書いていて、助詞や句読点ひとつで印象が変わることを知っている(つもり)からだ。

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本店限定のブレンドと洒落たケーキを満喫した。濃い茶色の口紅で白いティーカップを汚してしまうのが何だか申し訳なくて、一口飲むごとに親指で拭いた。聞いたこともない「シブースト」なるケーキは、アップルパイとプリンとクレームブリュレが共存する不思議な味だった。珍しく本を読みながら、カフェインの海を揺蕩っていた。

 

文学部を選んだがために書籍=課題というイメージが定着してしまい、よっぽど心にゆとりがないと本を読めなくなった。

紙とペン、あるいはパソコンと自分自身に向き合う作家の文章をインプットして、7か月が経った社会人生活にふと想いを馳せた。

 

 

毎日が刺激的だった。本当に色々なことがあった。良いことも悪いことも書ききれないほどあった。数えきれないほどミスをして、その度に誰かが手を差し伸べてくれた。同期しかり、上司しかり、人に恵まれた8か月だった。

はてなブログで熱心にアウトプットした大学生活なんて、ずいぶん前に忘れていた。

 

 

思い立ったが吉日。帰りの電車でブログの編集画面を立ち上げた。47記事も書いてたのか。

知らない間に累計6500アクセスを到達していた。嬉しかった。

 

ここ最近は得意先提案用のパワポとか新商品のプレスリリースとか、社会の一員として文章を書く依頼をいただいている。何だかんだ自分のために文章を書くのは2月の記事以来かもしれない。

 

昨日蒙古タンメンをスープまで飲み干したせいでお腹が痛くなってきた。それすらネタにできるほど「ブログを書きたい」という想いがみなぎっていた。

潔く豆苗炒めに。見た目はアレだけど普通に美味しい

このブログを書き始めて3時間が経とうとしている。ゆうに2000字以上書いている。でも全然苦じゃない。むしろ楽しい。

 

HPを削りながら長ぇ文章を書いては消して、一つの形になる快感から逃れられない。

 

陰キャがパーティーの準備に勤しむくらいで突然陽キャになれないように、社会人になっても好きなものは好きだった。純喫茶めぐりもネイルも推し活もライフワークのままだった。

 

豆苗を収穫し、来月誕生日を迎える友達にしれっと欲しいものを聞き出し、洗濯機を回した。土曜日にやれなかったことを全部クリアした。自炊とか読書とか、普段は億劫なこともやった。偉い。偉いぞ自分。豆苗のように、私は少しずつ成長している。

 

 

昨日の空虚と、今日の収穫。

今日の自分を文章で讃えて、また明日を迎える。

明日も会社に向かい、思い通りにいかない毎日を乗り越えるために。

 

 

22歳の秋。私はまだ、ハロウィンを知らない。